岩の上のポニョ 最後の大会

大会前日ホテルの前で後輩たちと。


岩の上のポニョ最後の大会

平成21年8月1日

岩村田高校将棋班顧問 土屋稔

昨夜9時過ぎに高校将棋選手権大会のあった三重県から帰ってきました。

少し長くなりますが、ポニョの最後の大会の報告と今までご指導くださった皆様に感謝の思いを書かせていただきます

7月29日~30日三重県賢島にて全国大会の火蓋が切って落とされました。持ち時間は20分30秒、予選スイス式4回戦の後、3勝以上のチームによる決勝トーナメント(2敗で失格)になっています。
朝早くからプロ棋士の勝又先生、石川先生も駆けつけて激励の言葉をいただきました。岩村田からは応援の1年女子も参加して勇気100倍張り切って大会に挑みました。

 

1回戦、開始早々5分足らずで、三将の堀内は勝勢となり、大将の佐藤も優勢になったので、私は、安心して優勝候補の偵察に回りました。その後、副将の水上もきちんと寄せて勝ち3―0と幸先の良いスタートとなりました。

 

2回戦、3人とも好調で危なげなく勝利し3―0の2連勝。岩村田の好調な出だしをよそに、他のチームでは波乱が起きていました。優勝候補の3校 千葉幕張総合、愛知南山、静岡韮山がそろって負けてしまい壁際に立たされたのです。

 

3回戦、岩村田にも異変が起きました。佐藤は慣れない戦型(筋違い角向かい飛車)に序盤から苦しんでいました。一方の堀内は好調を保ち3勝目を上げ、水上も相手の大駒を全て取り切り、誰の目にも勝利は目前と思われました。予選突破が頭をかすめ手が震えているのがわかりました。

 

次の瞬間周りのギャラリーも凍りつきました。

 

6四の馬が9六へ移動したのです。極度の緊張から頭が真っ白になり痛恨の反則負け。

 

 

佐藤はすでに挽回不可能なほどの差になっており、私は次の4回戦のことを考えていました。ところがここから佐藤は200手を超える粘りを見せたのです。

 相手の反則以外に勝利はありえない状況で、全ての駒を自陣に投入し、相手の駒台には山のような持ち駒、ただ受けているだけのサンドバックのような将棋でした。

 こんなに屈辱的な将棋、個人戦なら100手も前に投げているでしょう。しかしこれは団体戦、最後の大会でもあり、どうしてもあきらめ切れない思いが佐藤の指を動かしているのだと感じました。

その横で自分のミスから好局を落とした水上が首を絞めつけられるような思いで佐藤を見守っていました。 

 

 

 

 

数十分後、盤面には投了を告げた佐藤の駒はほとんど残っていませんでした。気丈に振舞っていた佐藤を会場の外へ連れ出すと泣き崩れました。

水上のショックと後悔、200手に及ぶ試合での佐藤の疲労、岩村田にとっては、かなり手痛い敗北となりました。

 

 


 

大会風景(写真提供 石川陽生先生)


しかし勝負はまだ終わっていません。4局目を勝利して意地でも決勝トーナメント進出を果たさなければなりません。

休憩のわずか10分間で3回戦のダメージを回復できるかどうか、いつもと変わらぬ3人へのアドバイスは、「苦しいときには、私と過ごした2年間を思い出してほしい。毎日解いた詰め将棋、毎週出かけたおじさんたちとの大会。自分の力を信じる、積み重ねた努力が助けてくれる」でした。

 

 

リアルタイムで学校に残った仲間や後輩たち小山さんから次々と届く激励のメール、先輩からの応援の声、会場の勝又先生、石川先生の温かい言葉。必死に慣れない棋譜を取って応援する3人の1年生。心配そうに見守る保護者。

 

皆さんの暖かい応援に涙が出る思いでした。

 

3年間まじめに将棋に取り組み、ひたむきに私の指導に付いてきた3人は想像以上に精神的にも技術的にも強くなっていました。わずか10分間足らずの休憩で、しっかりと気持ちを切りかえて、立ち直ってくれました。 4回戦の3人は本来の自分の将棋を取り戻して3―0で快勝、中でも三将の堀内は絶好調で無傷の4連勝。 

 


 

 

生徒を見守る将棋班顧問(写真提供 石川陽生先生)


いよいよ決勝トーナメント1回戦、本当の戦いはこれから始まる。倒さねばならない強敵は昨年全国優勝の愛知南山。メンバーも昨年と全く同じチームでした。

 佐藤は角交換型の石田流で苦戦、水上はがっぷり四つに組み、一進一退の攻防を繰り広げており、堀内はやや作戦負けの状態が続きました。

 

しばらくして、水上が別人のような巧みな差し回しで相手棒銀をいなして一気に優勢に立ち、最後は相手のミスも出て終わってみれば快勝でした。 佐藤は粘って善戦するものの予選の疲れからか指し手に精彩を欠き、無念の投了となり、勝負の行方は堀内に託されました。

 

 

 

しかし堀内の穴熊には敵の龍と馬、桂馬に銀も迫り、と金攻め。堀内の飛車は王の近くへ逃げ込み、攻め駒は角ただ1枚のみ、時計の非情な電子音にあわてて自陣に駒を埋めるだけでした。周りの誰もが南山の勝利と確信していました。

 皆があきらめムードの中、私の教えたとおりに一生懸命指し続ける痛々しい姿に涙が出そうでした。

 今日の堀内のひたむきな思いに勝利の女神が微笑まないはずはなく、5五角から玉頭攻めが決まって奇跡の逆転が起きました。

 眠っていた飛車が目を覚まし、最後は見事な寄せでした。泣きべそをかきながら続けた詰め将棋が役に立ったのです。

 

 

 

 

岩村田高校対局風景(写真提供 石川陽生先生)

準々決勝、相手の伊勢高校は地元の追い風に乗って絶好調、主力を副将、三将に置いて大将をおとりにする作戦で、ここまで全体局を2人が全勝し全て2―1で勝ち上がってきた強敵です。

 

佐藤はおとりの大将を開始15分で難なく撃破、矢倉戦で快勝し残り2人の結果を待っています。

 

水上の相手は個人戦全国3位の強敵、徐々に差が開き最後は力負け。勝敗の行方はまたしても三将戦にゆだねられました。

 

堀内は立石流の見事な差し回しでうまく捌いて優勢のまま中盤に突入しましたが、うまい寄せが見つからずに勝負はもつれて終盤戦へ移行しました。

 

堀内が攻め、相手が受ける場面が何度も何度も繰り返され固唾を飲んで見守りました。徐々に攻めを受け止められ、相手の立ち直りを許し、攻守が逆転した格好となり、最後は力尽きました。十分勝機があっただけに本当に残念でした。

うなだれて泣き崩れる3人にかける言葉もなく生徒を連れて部屋へ戻りました。

優勝も意識していただけに3年間育て上げたこの3人でさえも全国は勝てないのかと心底悔しく思いました。

 ソファーに座りしばらくの沈黙の中、泣いている3人を眺めていると3年間の思い出が走馬灯のようにめぐって胸がいっぱいになりました。高校で初めて駒を触った生徒が2年ちょっとで矢倉だの相振りだの石田流云々・・・自分なんて何十年も将棋を指して来てこの程度なのに、よくぞ一生懸命私の指導に付いてきてくれました。本当にありがとう。

 よく頑張ったと3人の頭をなでたら自然と涙が出てきて、気づけば1年生も泣いていて年甲斐もなく生徒の前で泣いてしまいました。

 

「全国5位ってすごいじゃないか。胸を張って堂々と岩村田へ帰ろう」そう言ってもう一度3人の頭をなでました。

最終結果は5位。 

佐藤4勝2敗

水上4勝2敗

堀内5勝1敗

 

ポニョたちの夏はこうして幕を閉じました。

 


3年間本当に良く頑張りました。

 3人がここまで来られたのも支えてくださった皆様のおかげと思っております。

 本当に多くの方々に応援していただきご指導いただきありがとうございました。3人の真面目な人柄が皆さんに認めていただき受け入れていただけたのだと思っております。

 勝又先生、的確な助言ありがとうございました「将棋を続けているといい出逢いが必ずある」。彼女たちも実感していることでしょう。「詰め将棋は裏切らない」石川先生の言葉に生徒は感激していました。

 すばらしい男子部員たち仲間に恵まれ、また何度も足を運んでくださったプロの先生方。塩尻支部や小諸支部・軽井沢支部の先生方。信大のお兄さんたちやたくさんの方の応援がありました。

 3人は引退して将棋大会からは姿を消しますが今後も楽しみながら将棋を続けてほしいと思っています。


長野県将棋情報サイト掲示板・管理人メールに届いたメッセージ


岩村田頑張りました。 投稿者:勝又清和  投稿日:2009年 7月31日(金)00時35分2秒

  岩村田高校、よく頑張りました。予選で思わぬ敗戦がありましたが3勝1敗で見事決勝トーナメント入り。一回戦ではディフェンディングチャンピオンの南山女子を見事破ってのベスト8です。皆さん、お疲れさまでした。
私も賢島から4時間半かけてようやく帰宅です 。

 

Re: ポニョ最後の大会 投稿者:勝又清和  投稿日:2009年 8月 3日(月)21時07分54秒  

 将棋部顧問様、ならびに岩村田高校の選手、そして後輩のみなさま、きちんとあいさつせずに別れてしまってすみません。岩村田高校が心を一つにした素晴らしい戦いを見せて頂いてありがとうございます。

 どんなに悪くなってもあきらめずに戦い抜いた佐藤さん、そして負けた後でも敗因を私に聞きに来る姿勢に感動しました。その根性を私が教えている男の子達に伝えたいです。

 不運な反則負けにもめげず強敵南山に快勝した水上さん、その経験は今後に必ず生きるでしょう。

 堀内さん、南山戦での▲4八金の空き王手からの見事な逆転勝ちは、見ていて鳥肌が立ちました。素晴らしい将棋でした。3人とも谷川先生がよく言う「良い時に焦らず、悪い時にあきらめないことです」通りの戦いぶりでした。

 私は将棋を通じた自然なつながり・付き合いを大切にしてきました。今回も大会前日に山下先生のご実家の松阪で将棋好きな方々と楽しいひとときを過ごせました。

これからも皆さん将棋を通じた出会いを大切にして、そして将棋をずーーと楽しんでください。                             

 

 


高校選手権での写真を送ります。

2009年8月2日 石川陽生七段

 

土屋先生の文章 拝読しました。

土屋先生が十分語っているので、私から言うべきことはありません。

ただ彼女たちは一人一人が素晴らしく、チームとしても最高です。

いい戦いを見れて、賢島に行ったかいがありました。


皆、お疲れさま(o^-^o) 投稿者:みるく  投稿日:2009年 8月 5日(水)06時02分5秒

  土屋先生の報告を読んで、3人の頑張りに涙がこぼれました。

どんな敗勢になっても諦めない彼女達は、誰よりも強かったと思います。

反則負けは本当に辛かったでしょう。

それでも、これが団体戦であることを忘れないでください。

一度の失敗以上に、3人だったからこそ頑張れたことも、嬉しかったことも沢山あったはずです。

負けて泣けるほど一生懸命になれた自分たちを誇りに思ってください。

岩村田に行くたびに、いつも楽しそうに笑っている皆が大好きでした。

将棋は指すことが全てではありません。今度は後輩達を見守り、大切なことを伝えて行ってください。  


おつかれさまでした。 投稿者:鉄血宰相  投稿日:2009年 7月31日(金)09時36分52秒

  岩村田高校の選手の皆様、土屋先生お疲れ様でした。ベスト8お見事です。

3年生は、これで引退となるのでしょうが、「将棋は、人生の友」これからも続けてください。来年春まで勉強で大変でしょうが、たまには後輩と指してあげてくださいね。

 

Re: 岩村田新体制・始動! 投稿者:鉄血宰相  投稿日:2009年 8月 6日(木)20時43分28秒

 > No.840[元記事へ]

将棋部顧問様の文を拝読して、胸が詰まる思いになりました。
改めて、ポニョ三人をほめてあげたい。「よく、がんばったね。」

将棋部顧問様
ポニョの後輩達のお役に立てるなら、いつでも声を掛けてください。
私は、いつでも岩高の味方です。

ポニョたちの思いが連綿と続いて行きますように!と私も願います。  

 


(無題) 投稿者:CROSS/SPEED  投稿日:2009年 8月 1日(土)02時20分2秒  

  お久し振りです!

 久々に将棋を触る機会がありまして、そういえば高校将棋の全国ってもう終わったっけ?
とおもって覗いたらなんとカワイイ後輩が全国大会優勝経験数回してる強豪を下してのベスト8といってるではありませんか!

 本当に頑張ったと心から思います

 同時に自分も負けないでこの不況の波の中で頑張って就活しなければと思いました(笑

 夏に一回戻る予定ではいますが、もし都合合えばあって後輩達ともテツ母ともお話したい次第です

 3人とも本当におめでとう!  


お疲れ様でした 投稿者:北部遠征師団長  投稿日:2009年 8月 3日(月)00時46分8秒

岩村田のポニョ達、凄い活躍ですね

お疲れ様でした

皆さんの将棋人生はまだ三年ですか

それで全国五位とは!(驚嘆)

これからも大会やイベントで僕に教えて下さい。

顧問の土屋先生もお疲れ様でした

今後も何かお手伝いできることがあればよろしくお願いします


岩村田高校に敬礼! 投稿者:長野MSG総統  投稿日:2009年 8月 5日(水)22時08分53秒  

  全国大会お疲れ様でした。紙一重の差で悔しい思いをしたようですが、全国5位もまた素晴らしい成績であります。

激戦の連続で疲労が蓄積する中、一度は折れかかった心を奮い起こし、前年優勝校を破る程の立ち直りを見せた事には驚きを隠せませんでした。日頃の練習と前向きな姿勢の賜物かと思います。

優勝を目標としていただけに、プレッシャーも大きかったと思います。こればかりは実戦経験を積む事でしか解決出来ない問題です。それよりも仲間と励まし合い、支え合いながら全力で苦しい戦いを幾度も乗り越えた事に意義があると思います。

大会が終ってもポニョトリオの人生も貴校の将来も、まだまだこれからです。これからの行く末に大いなる幸があらん事を心よりお祈り致したいと思います。